2021年8月17日、Microsoft は Internet Explorer ブラウザを停止することを決定しました。現在は Edge として存続(最初に登場したエンジンの名前も Edge)していますが、遂に大元である Internet Explorer が停止したのです。
これにより、インターネット上のブラウザエンジンが1つ少なくなりました。とても残念なことです。ブラウザ業界において競争はとても有益なものであり、ブラウザエンジンの選択肢が少ないほど、ブラウザエンジンの技術革新が少なくなってしまうことを意味します。
とはいえ、Internet Explorer の損失は実際には損失ではありません(Presto ブラウザエンジンの損失は確かに大きな損失でした)。
Internet Explorer: 取り込み、拡張し、抹殺する
最初の Internet Explorer は、Mosaic code(ライセンス元 Spyglass)に基づいて開発されました。Microsoft のウェブへの参入はやや遅めでした。彼らの当初の目標は独自のインターネットの構築でしたが、AOL や Compuserve など、インターネットを構築するその他の独自の試みと同様、失敗に終わりました。
次に、Microsoft は Netscape の成長を目の当たりにし、実際に行動に移しました。Spyglass からライセンスを取得した後、彼らは悪名高い ’3E 戦略’(取り込み、拡張し、抹殺する)を開始したのです。
原則は、ウェブ標準を採用し、ウェブ標準コミュニティを取り込むことでした。Netscape からの「空気供給を遮断」した後、Internet Explorer を Windows にバンドルし、他のブラウザをバンドルする機能を停止することにより、ブラウザ市場の主導権を急速に握っていきました。
その後、コミュニティを完全に無視し、ウェブ標準を拡張し始めました。この間、彼らは ActiveX や Silverlight などのテクノロジーを導入し、競合他社のブラウザを使用してそれらのサービスへのアクセスを不可能としました。
また、HTML / CSS / JS コードにさまざまな専用タグを追加したため、ウェブ開発者にとって受難の時代が始まります。多くのウェブ開発者がウェブ標準ではなく IE 用に最適化されたサイトを作成したため、ブラウザにおける競合が非常に困難なものになっていきました。
Microsoft がウェブを支配
当時、私は Geir Ivarsøy と共同で設立した Opera ブラウザをリードしていました。
Microsoft の競争相手として、私たちは彼らが市場を独占するためにしたことの多くに気づきました。
Windows においてディストリビューションの取得は不可能でした。Compaq や Intel など、私たちが関わっていたプロジェクトは、Microsoft の脅威によりキャンセルされ、代わりに互換性に関する問題の対処に追われることとなったのです。下記はいくつかの例です。
- Microsoft は独自のサーバーソフトウェアを作成し、(バージョン4への)更新で、Cookie が送信されないようにするファイルが含まれていました。この事態を理解するのに非常に長い時間がかかりました。これにより、BBC などのウェブサイトが壊れてしまい、私たちは指摘を受けました。この問題を発見した後、Microsoft は修正しました。
- Microsoft は、Opera ユーザーが MSN サービスにアクセスすることを禁止し、 XHTML をサポートしていないと主張しました。XHTML で、反論するプレスリリースを書きました。蓋を開けてみると、我々は XHTML をサポートしていましたが、彼らはサポートしていなかったのです。
- Microsoft は壊れた(テキストが重複していた)CSS ファイルを Opera ユーザーに送りつけました。私たちはこれを利用し、少しいたずらをして、MSN サイトのすべてのテキストをマペットショーでのスウェーデンクックの話し方に似たものに変更する特別な Bork エディションの Opera を作成しました。もちろんそれは成功し、Microsoft はサイトの編集を余儀なくされました。
しかし、実際には問題のあるウェブサイトはもっとたくさんありました。Microsoft が標準から逸脱し、最も使用されているブラウザを有していたため、多くのサイトでは Internet Explorer を使用してコンテンツにアクセスするよう要求していました。
Microsoft はウェブを支配する本当に近いところまできていたのです。
Microsoft の戦術が裏目に
Microsoft は Netscape を廃止に追い込み、Netscape は Mozilla に置き換えられましたが、Mozilla は初期の頃はあまり影響力がある訳ではありませんでした。
幸いなことに、Microsoft の戦略は裏目に出ました。
おそらく、人々を Silverlight に移動したかったためか、Internet Explorer 6 の後に Internet Explorer の開発を中止しました。
同時期、Opera、Mozilla、および Apple は、ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアムにおいて、 各種技術の標準化を推進するため協力することを決定し、共同で HTML 4 を作成しました。これにより、ウェブはまた別のレベルに到達しました。
徐々に、IE ではないブラウザを使うユーザーが増えてきたため、Microsoft は Internet Explorer の開発を再開することを余儀なくされましたが、時すでに遅し。彼らは依然として市場シェアをリードしていたものの、その勢いは衰退。さらに、米国政府と EU の両方が Microsoft の反競争的行動を監視していたことを踏まえると、彼らの対応には多少の制限がかかる状況でした。
Microsoft は、ブラウザ市場での支配を利用して Netscape を廃止に追い込んだことにより、立場が苦しくなっていました。政府が監視しているとなると、彼らは彼らのメリットでもっと競争しなければなりません。彼らの非互換性は突然資産から負債へと変わってしまったのです。
Internet Explorer ではなく、ウェブ標準用のウェブサイトコードを最初に使用
ウェブサイトを構築する際、まず Internet Explorer 向けにコーディングする時代もありました。その後、多くのウェブサイト開発者はウェブ標準に準拠したコーディングを行った後に Internet Explorer 対応を行うようになりました。
Microsoft は現在、彼らが引き起こしてしまった問題への対処に追われています。標準コードとそれらからの逸脱したコードの両方をサポートすることが難しくなったのです。やむをえず最終的には彼らは古いコードを削除し、標準コードを採用することになりました。識別文字列で名前を探しているコードがまだたくさんあるためやり直しは難しく、代わりに Chromium を採用しています。
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Microsoft が過去を払拭することは難しいでしょう。政府の焦点が Google と Facebook に集中していることをいいことに、Microsoft がアップデートの度に、競合するブラウザが完全にデフォルトになるのを難しくして、ユーザーを盗むために徐々に自分の立場を利用しようとしていることも明らかになっています。
同時に、Internet Explorer がなくなったことは良いことです。インターネットにおいて選択肢は多くあるべきですが、Internet Explorer は私たちが必要とした選択肢ではありません。
メインの写真は Aron Visuals より。
原文 – Good riddance, Internet Explorer (2022年6月16日版の記事を元に翻訳)
訳 – Hojo
Team Vivaldi
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