2025 年、リトル・テックの年

2025 年はリトル・テックの時代。巨大 IT 企業への信頼が揺らぐ中、プライバシーや透明性を重視する小規模な技術ソリューションへの関心が高まっています。規制強化やユーザーの意識変化が後押しするこのムーブメントは、オープンで自由なウェブの再生を目指しています。

約 100 年前、SF(サイエンスフィクション)の黄金時代は転換点を迎えました。技術的な躍進の物語は、社会的な影響に対する警告の物語へと変わっていったのです。ノーチラス号(フランスの SF 作家、ジュール・ヴェルヌの小説に登場する架空の潜水艦)でのスリリングな冒険から始まった物語は、やがて、『すばらしい新世界』のような重苦しい流れ作業的な快楽主義や『1984年』で描かれた監視社会へと発展していきました。

昨今、世間の人々がビッグ・テック企業(世界規模で支配的な影響力を持つ巨大 IT 企業群)に対して持つイメージにも同様の変化が見られます。かつては「無料」のビデオ通話や無限のストレージに畏敬の念を抱いていたものの、今では疑念へと変わっています。なぜ、無料通話を提供するメッセージアプリが、自分の連絡先や写真、位置情報へのアクセス権を求めるのでしょう?なぜプライベートな会話に基づいた広告を表示したり、特定の政治的イデオロギーにさりげなく誘導したりするのでしょう?そして、移民やインフレ、気候政策といった社会問題に対する怒りを煽るのはなぜでしょう?

ベンチャーキャピタル(ベンチャー企業に出資して株式を取得して将来の株式売却益を狙う投資会社や投資ファンド)やシリコンバレーが熱心に推しているにもかかわらず、消費者は「人工知能」に警戒心を抱いています。その結果、AI 企業は信頼の危機を目の当たりにしています。なぜなら、上司が自分たちの代わりに使おうと考えているロボットの訓練に自分の個人データが使われていないという約束を人々が単に信じていないからです。

人々はビッグ・テック企業に愛想を尽かし始め、ビッグ・テックに対する信頼の時代は終わりを告げようとしています。かつてはおとぎ話だったものが、今は高熱による夢と化しつつあるのです。

リトル・テックの台頭

このような変化はいたるところに見られます。ビッグ・テック企業による支配を避けるために、代替となるブラウザや検索エンジンを選ぶユーザーが増えつつあります。様々な規制もその一翼を担っていると言えます。GDPR(ヨーロッパ連合が定める個人データ保護に関する規則)が施行されて以降、また、EU のデジタル市場法とデジタルサービス法の適用により、人々は透明性と自律性を優先できる代替手段を模索し始めています。European Alternatives(民主主義、平等、文化を国家を超えて推進する非営利の市民社会団体)のようなプラットフォームが台頭し始め、シリコンバレーの影響力の範囲外で構築された、独立した技術ソリューションをユーザーが見出せるようになってきています。

しかし、この変化を後押ししているのはユーザーだけではありません。プライベート・エクイティ(非上場企業の株式や未公開企業や不動産への投資)やベンチャー・キャピタルは、これまでビッグ・テック企業に忠誠を誓ってきましたが、最近は人間を中心に考えたデザインとプライバシー重視の原則を提供する、小規模で融通の利くスタートアップ企業にビジネスチャンスを見出そうとしています。これが歴史的な転換点の始まりとなることを期待しています。

ビッグ・テック企業に対するグローバルな試練

ビッグ・テック企業は、これまで思うがままに成長を遂げてきましたが、今では世界中で監視の目を向けられています。規制当局は近年、収拾がつかなくなるだけでなく軌道から外れようとしている巨大企業に追いつくため、仕事に追われています。

現在、世界中で以下のようなことが起こっています。

  • ヨーロッパ: EU デジタル市場法は、相互運用性の障壁を取り除き、公正な競争を確保することを目的として、独占的な慣行を対象としている。一方、英国競争市場庁は、2025 年 1 月から世界売上高の最大 10% の制裁金を課す権限を付与し、モバイルにおける 2 社独占に対する監視を強化している。
  • アジアとオーストラリア: 日本、韓国、オーストラリアは、ビッグ・テック企業の初期の成功が、イノベーションだけでなく競争を阻害する独占的慣行にも起因していたことを認識し、ビッグ・テックの支配を抑制するための新たな政策を制定している。
  • 米国: ビッグ・テック企業の母国でも、司法省が Apple に対して現在起こしている訴訟では、こうした巨大企業がイノベーションを阻害していると主張している。訴訟では「競争によって、現在の Apple が将来の Apple に害を及ぼすことはないことを保証する」と述べられている。

このような規制は、より広範な認識を反映して推進されています:大手テクノロジー企業は単に大きくなっただけでなく、略奪的になったからです。

壁に囲まれた庭園からオープンフィールドへ

皮肉は無視しがたいものです。初期のウェブとともに育った私たちの多くは、政府の干渉から自由であることを求めていました。1996 年に、ジョン・ペリー・バーロウが「産業界の政府……私たちが集まるところに主権はない」と宣言したのは有名な話です。しかし、多くが思い描いていた自由でアナーキーなユートピアは、一握りの企業がすべての権力を握り、データが取引通貨となる、自由な資本主義のワイルド・ウェストと化したのです。

しかし、2025 年は希望の年でもあります。

イーロン・マスクの空洞化した X(旧ツイッター)からユーザーが離れ、代わって新規ユーザーが急増している Mastodon について考えてみましょう。Mastodon は Bluesky と比べて誇大広告が少ないですが、それは投資家に利益をもたらす必要がないので、広告を必要としないからです。Fediverse の一部の、この分散型ソーシャル・ネットワークは、リトル・テックの輝かしい実例と言えます。Mastodon は、ビッグ・テックの用心深く守られた領域とは異なり、個々のコンピューターが自由に接続し、通信することを可能にするオープン・スタンダードで発展しています。ニッチと思われるかもしれないし、メインストリームのユーザーにとってはマニアックすぎるかもしれません。でも、これこそが、オープンで、ネットワークでつながった、限界の無い、ウェブの原点なのです。

リトル・テックは単なるバズワードではなく、より良いウェブを目指すムーブメントなのです。 

より良いウェブに向けて

2025年も、後半に入りました。リトル・テックを支援しようと思うならば、新しいブラウザに切り替えて、新しい検索エンジンを試してみませんか。大手テクノロジー企業とは異なり、リトル・テック企業はユーザーを追跡したり、プロファイリングしたり、データを売ったりすることはありません。ウェブはユーザーを搾取するのではなく、ユーザーに奉仕すべきであるという原則の上にリトル・テックは成り立っているのです。

ウェブはすでに、想像がつかないような方法で世界を変えてきました。リトル・テックのルネッサンスにより、ウェブは再び、より良い方向へと変貌を遂げることでしょう。

メインの写真は – Anton Maksimov 5642.su より

訳 – Mayumi
Team Vivaldi
Twitter | Mastodon | Facebook | Instagram | note

豊富な機能とカスタマイゼーションで、もっと自由にブラウジングを楽しもう!

Vivaldi をダウンロード