DMA(デジタル市場法)が日本のユーザーにとっても無視できない理由

「DMA って、たしかヨーロッパの法律で日本には関係ないよね?」いいえ、そんなことはないのです。いつも使うアプリケーションのサービス仕様が変わる可能性もあるし、日本でも DMA を意識した法案が閣議決定されました。

3 行でわかる、この記事の概要

DMA とは、巨大テクノロジー企業の市場支配を規制し、デジタル市場における公平な競争を促進することを目的とした EU での法律です。

ノルウェーの小さなブラウザベンダー Vivaldi も、ユーザーに公平で多様な選択肢があるオープンなインターネットを実現するために DMA に賛同し、私たちの考えを発信しています。

「それ、EU の話で日本は関係ないのでは?」と思うかもしれませんが、日本でも DMA を受けて法案の検討が進んでいるなど、関係大ありなのです。

最近、私たち Vivaldi の発信の中で「DMA(デジタル市場法)」という言葉をよく目にしませんか?

Vivaldi ブログの記事や、創業者のヨン・フォン・テッツナーが SNS(Vivaldi Social, X) で、DMA に対しての私たちの立場や意見を発信しています。

DMA に関して全く知らなかった方は「なんじゃらほい?」でしたよね。で、もしかしたら、DMA についての記事はこれまでスルーされてきたかもしれません。

でもね、日本経済新聞も「EU のデジタル市場法(DMA)」という特集ページを作って関連記事をまとめているくらい、これからのインターネットのあり方に関わる大事なニュース。

さらには、日本でも 4 月 26 日に、DMA を意識した法案が閣議決定されました。「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」です。

DMA は、日本のインターネットユーザーの私たちにもいろんな影響がありそう。

というわけで、この記事で、日本のユーザーの皆さんのために DMA について改めて説明しますね。

DMA(Digital Market Act、デジタル市場法)ってなに?

DMA とは、欧州連合(EU)が 2024 年 3 月 7 日に全面適用を始めた、巨大テクノロジー企業の市場支配を規制し、デジタル市場における公平な競争を促進することを目的とした法律です。

その巨大テクノロジー企業として現時点で挙げられているのは、Apple、Alphabet、Meta、Amazon、Microsoft、ByteDance の 6 社。

彼らは「ゲートキーパー」と指定され、彼らが提供する SNS や広告、検索、ブラウザ、OS 等において、DMA のルールの遵守が求められています。

Gatekeeperに指定された6社のリスト並びに対象となる彼らの運営するサービスのリスト(SNS、アプリストア、ブラウザ、OS、検索など)
DMA 公式ページより、ゲートキーパーの企業と対象となるサービス

例えば、モバイル向けの OS を提供する企業が、その OS を利用するユーザーに自社のアプリを優先的にオススメして、他の企業が開発する同種のアプリは目立たない場所に追いやったら?

そんな風に巨大テクノロジー企業が市場の支配力を利用して、健全な競争を制限して、ユーザーの選択肢を奪う。それって、良い世界とは言えないですよね。

小さな企業が作るオンラインサービスでも、もっと小さい数名のグループで開発したアプリケーションでも、全てが公平に選択肢として並び、誰もが自由に好きなものを選べる。

そんな多様な選択肢のある世界のために、DMA は作られています。

ゲートキーパーが守るべき、DMA のルールって?

DMA 公式ページにある、ゲートキーパーがするべきこと(Do’s)とするべきでないこと(Don’ts)には、こう書いてあります。

するべきこと(Do’s)

  • 第三者がゲートキーパーのサービスと連携できるようにする。
  • ビジネスユーザー(製品やアプリを開発して提供する側の人たち)が彼らのデータにアクセスできるようにする。
  • 広告主が自分たちの広告を独立して検証できるよう、必要なツールと情報を提供する。
  • ビジネスユーザーがゲートキーパーのプラットフォーム外で自分たちのサービスを宣伝し、顧客と契約を結べるようにする。

ざっくり言うと、ゲートキーパーが提供するサービスにおいて、他社のサービスとの連携を可能にし、データのアクセスを許可し、プラットフォーム外でのビジネス利用を許可することが求められています。

それって例えば、自社サービスに囲い込まず、他のサービスにデータと共に引っ越しやすくしましょうということです。

するべきでないこと(Don’ts)

  • 自社のサービスや製品を他社のものよりも有利に扱うこと。
  • 消費者がプラットフォーム外のビジネスと連携することを防ぐこと。
  • ユーザーがプリインストールされたソフトウェアやアプリをアンインストールすることを妨げること。
  • ユーザーの同意なしに、広告のためにプラットフォーム外でユーザーを追跡すること。

つまり、自社サービスを優遇して、他のサービスへの移行をしにくくしたりしないようにしよう!ということですね。

守らないと売上高 10% の罰金

これを守らない場合には、世界での売上高の最大 10% の罰金を科す可能性があります。3 月 25 日の時点で既に、Alphabet(Googleの親会社)、Apple、Metaを対象に、違反調査が開始されています。

欧州委員会、Alphabet、Apple、Metaを対象に初のDMA(デジタル市場法)違反調査開始 – ITmedia NEWS

DMA に賛同する Vivaldi の考え

Vivaldi は、上記 Do’s と Don’ts で定義されているように、ユーザーが自由に公平にさまざまなアプリケーションを選択でき、いつでも別の環境に移行できること(データポータビリティ=相互運用性。これまで使っていたアプリケーションやサービスから、データと共に新しい環境に問題なく移行できるようにすること)が大事だと考えています。

ただ、現実には「選択の自由・公平さ」、「データポータビリティ」と一口に言っても、その実現度合いはさまざまです。

Vivaldi が最近公開した 2 つの記事を例に、こうあってほしいと思う私たちの考えを説明しますね。

公平にブラウザを選択しやすくする、ブラウザ選択画面

最近、Vivaldi ブログにこんな記事を公開しました。

ブラウザ選択画面はどうあるべき?架空の 2 社の物語で考えてみよう

「ブラウザ選択画面」は作り方次第で、ユーザーに与える印象が大きく異なります。この記事は、架空の 2 つの会社が全く違うアプローチでブラウザ選択画面を作ったらどうなるのかを考えてみました。

この記事の前半で「全てが公平に選択肢として並び、誰もが自由に好きなものを選べる」多様性ある世界であってほしいと書いています。ゲートキーパーが用意するブラウザ選択画面が、もしこんな仕様だったらどうでしょう。

  • 選択する前に自社のブラウザアイコンやブランドカラーを先に印象づけられる
  • いまブラウザを使おうと思ったタイミングを邪魔するように選択画面が表示される
  • 選択画面に並ぶブラウザリストの順番が、操作されている
  • それぞれのブラウザの説明文が表示されず、選ぶ基準が与えられない
  • 簡単に選択画面をスキップできちゃうけれど、再確認のタイミングが不透明

「選択画面を設ければよい」ではなく、全ての選択肢がユーザーにとって公平で選びやすい選択画面になっていることも大事ですよね。

ブラウザの引っ越しを簡単にする、データポータビリティ

もうひとつ、Vivaldi ブログで公開した記事をご紹介します。この記事は、DMA について書いているわけではないけれど、ユーザーに選択肢を与えるという意味で深く関連しています。

iOS や Android でブックマークを別のブラウザに移行できない理由とは?

他のブラウザを使いたいときは、自分のデータと共にいつでも簡単に移行できるべきだと、Vivaldi は考えています。実際、デスクトップ版ならば、自由に他のブラウザへのデータの移行が可能です。

モバイルの OS では、アプリケーションのサンドボックス化(アプリケーションを特定の領域に隔離して外部にアクセスさせない仕組み)のために、ブックマークやパスワードなどブラウザ内のデータを他のブラウザに移行するのが難しいのです。サンドボックス化のセキュリティ的な利点は理解していますが、同時にデータポータビリティも大事だと思うのです。

日本の私たちにも大きく関係しています

3 月 7 日に施行された DMA のルールは、主に EU 域内で適用されているものです。ブラウザ選択画面も、日本にいる私たちには表示されません。

「てことは、やっぱり日本の私たちには関係ないんだよね?」と思われるかもしれません。

でも、そうとは言い切れません。DMA の動きは日本を含む世界中のユーザーや市場に影響を及ぼしています。

1. ヨーロッパ市場向けの対応が、全世界向けサービスの仕様に影響する可能性

ひとつは、ゲートキーパーとなる企業がヨーロッパ市場での要求に対応するために、世界中でのサービスの運営方法を変更するかもしれないこと。彼らの行なう製品やサービスの設計、データの取り扱い、ビジネスの透明性に関する変更が、私たち日本の利用者にも何らかの影響があるかもしれません。

日本に住む利用者としてではなく、事業者側の視点で考えてみましょう。DMA とは別のヨーロッパの規制「GDPR(EU 一般データ保護規則)」 を受けて、検討や対応を行なった国内事業が多数あります。GDPR とは、欧州経済領域(EEA)の個人情報保護のための取り扱いについての法的要件を定めた規則です。サービスの運営主体は日本だとしても、ヨーロッパとの取引やアクセスがある場合に守らなければいけないルールと罰則規定があります。DMA と GDPR は別物ですが、ヨーロッパの規制が日本に影響する例として紹介しました。

2. 日本でも類似した法案が閣議決定されました

もうひとつは、DMA のような規制がヨーロッパだけでなく、他の国々が類似の法律を導入する可能性もあること。

実際に、日本でも公正取引委員会が 4 月 26 日に、モバイル OS を提供する 2 社に対する法案「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」の閣議決定を発表しました。この法案はスマートフォンだけを対象にしてはいるものの、DMA を意識している部分がうかがえます。

この法案の主な禁止事項と遵守事項として、「ブラウザや検索等について、他の同種のサービスの選択肢を示す選択画面を表示しなければならない」とあり、国内でもブラウザ選択画面が実装されることになるのだと思います。

まとめ

インターネットのない世界なんて、考えられないですよね。ご存じの通り、インターネットは世界中でシームレスに繋がっています。

日本にいるから「DMA なんて関係ない」とは言い切れない理由、わかっていただけたでしょうか。

インターネットとそれを利用するプラットフォームやアプリケーションが、全てのユーザーにとって公平で健全であるために生まれた、DMA。一部の支配的な企業に振り回されない、オープンで公平で多様なインターネットのために、ヨーロッパの小さなブラウザベンダー Vivaldi は、自分たちの意見を発信し、少しでも良いインターネット作りに貢献していきたいと思っています。

私たちも、インターネットが大好きだから。

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